海外進出には20年の実績があるA社。海外勤務者はここ数年20名弱だった。リーマンショック後、日本国内の需要低迷を受けて、アジア全体への進出を積極的に行うこととなった。この1年に、倍の40名体制とすることを決定し、急遽人員を選抜した。4ヶ月後の赴任開始に向けて、様々な準備が慌ただしく過ぎていた。
そんなある日、担当吉田のもとに営業部部長沢木から電話で呼び出しがあった。
「吉田、この記事見たか?最近、海外に行くと、“うつ”になる駐在員が増えているらしいが、うちの連中は大丈夫だろうな。
社長も心配しているらしいぞ。」
「部長、大丈夫ですよ。元気ですし。」と吉田は答えた。
「だけど、赴任させるときはみんな元気だろう」
「B社で中東に行ったヤツが先日帰国したらしいぞ。」
確かに、その話は聞いた。それに、最近、新聞や雑誌で駐在員のメンタル不調に関する記事を目にする機会は増えた。
海外経験がある自分からすれば、国内にいて沢木の下で仕事するほうがよっぽど息苦しいが、沢木の言うとおり、自分が赴任した頃と市場環境は全く違う。何より我が社の赴任先はインド、ベトナムなど、日本人が少なく、病院は不足している。家族の帯同は認めなかっただけに心配でもある。
選抜には国内で営業成績が優秀で、自分から手を挙げたメンバーを中心に選抜した。だが、中には、見た目元気だが、その分、気分のアップダウンがあり、心配と言われればそういう社員もいなくはない。それより、日本と違う市場で、日本の営業が通用するかどうか、力を発揮できるものか・・・。営業部長の一言が、吉田の心にひっかかった。
ある日、沢木が読んだという記事を何気なく見てみると、「メンタルリスクも含めた海外勤務の適性を検査」をしている会社の名前が書かれていた。
吉田は、すぐにその記事の先、MD.ネットに電話をした。これまで色々な適性検査を調べたが、健康状態も含めた海外の勤務適性を検査するツールがなかった。説明を聞くとまさに抱えている課題に答えるツールだと考え、選抜者全員を実施することに決めた。
海外勤務適応力検査グローバルIQの結果、非常に興味深かった。健康に関する情報提供についての同意をとった上でテストが実施されたため、結果についてドクターから詳細にアドバイスを本人と人事担当者に届けられた。
必要であれば産業医にもレポートを提供してくれるという。
まず健康面でリスクあり、と指摘された社員は4名あった。
特に注意が必要とされた社員は1名で村松であった。不眠傾向があり、それも10代のころから、季節の変わり目になると眠れない症状が定期的にやってくるというものだった。本人は「学生時代からいつものことですから」、とたいして気にした様子はなかったが、MD.ネットの医師は、「気分浮き沈みが激しいという性格も影響して、海外という環境では緊張感が高まり、睡眠サイクルが狂いやすい。体調不良を起こす可能性が低くない」と指摘した。また、村松の緊張感が非常に強い傾向であることも伝えられた。日本と時差が5時間以上ある国への赴任は体内のホルモンが安定するまでに半年くらいを要し、本人が意識しないところで体調変化が起こる可能性が高いという。吉田は村松に対して、判定した医師とテレビ電話で面談をさせることを試みた。特に吉田が期待をしている社員だ。本人もやる気になっている。医師には、メンタル面での駐在に関する助言を依頼した。
医師からは、睡眠コントロールをしようと無理せず、薬を有効的に使用すること等、会社と本人へのアドバイスを受け、駐在可能との判断を得た。「モチベーション高く、逸材であることがよくわかりました。一緒にフォローしていきましょう。」
面談が終わったあと村松は「吉田さん、実は、日本のテレビ番組が見れないし、生活も変わるので、心配だったんですよ。いやあ、面談して自分でもその点不安が解決できたので、よかったですよ。」と告白された。自宅ではずっとテレビを付けっぱなしにしているが、その音が変わることが恐怖になっていたようだった。
「先生には、自宅から、日本のテレビをDVDに録画したり、映画などを定期的に送ってもらうようにアドバイスされましたよ。定期的に先生と連絡をとって健康管理を万全にします。」
その他の1名については、性格的傾向とアルコールとの関係について指摘された。酒量や飲み方、酔い方等と性格から、現地にいって、お酒に頼りやすく、その結果、メンタル不調を生じやすいことをアドバイスされた。健康診断の結果は現時点での結果であり、変動しやすい数値は、検査直前の生活習慣、食習慣で高くも低くも出るという。こうした行動面と性格からみた将来的なリスクまではわからなかった。
本人は、確かに、お酒好きで、酒量が多いわけではないが、同僚と飲むお酒が一番のストレス解消になると考えていた。今のところ問題はないと思っていたが、海外では緊張感からそれが大きなリスクになることを知らされた。
他の2名については、会社が把握していなかったが、不安、神経質傾向があり、海外では過重労働と重なると不調に陥りやすい傾向にあることを指摘された。労務管理を徹底すること、休日の確保、年数回の一時帰国、補助的な薬の持参などもアドバイスされた。
最終的な結果、吉田が責任もって選抜した社員全てが、数字も上でも海外適応力が高い社員だということが示めされた。
MD.ネットの担当者から、ストレスからの回復力や逆境等での耐性等、精神的なタフさを示すレジリアンスが高い候補者が我が社には多いことを示された(左図)。
どの地域に出しても、どういう問題でも、粘り強く解決し、へこたれない、そういう粘り強い社員さんを選抜されましたね、との評価だった。
通常の標準とされる73.3%に対して85.6%、評価結果も図のようにハイパフォーマーの結果を大きく上回っていた。
吉田はこの結果に人事担当者として大きな自信を持った。勤務成績はもちろん、半年かけて、各支店をまわり、面談も重ねて選抜してきた。
会社の将来を託す人材だからこそ、自分の目で確かめたいという信念もあった。札幌の支店長らは、「村松を抜かれたら売上が落ちる」と言って最後まで反対されたが、同期のよしみで何とかなだめて納得してもらった。そうやって全国から集
めた精鋭だ。客観的な評価も得たことで、大きな安心を得た気持だった。部長の沢木もこの結果に、「よし、役員に報告してこよう。会社としてもできるだけの支援しような」と安堵してくれた。吉田は、グローバルIQによって自社の海外事業の広がりを感じ取っていた。
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